この人については歴史があり過ぎて、書ききれない。これほど長い事仲良くしている人はそれほどいない。
  ただ一つ言える事は、彼女との出会いが私の人生を変えるきっかけだった。
  某劇団で初めて会った時、彼女は自己紹介で「屋形船を漕ぐバイトしています」と、言っていた。すると、その劇団の中の仕切り屋のような人が彼女を「ヤカタ」と、呼び出した。当時小娘だった私は、皆より全く経験も無かったが、そのまんまのネーミングセンスに関して疑問を持った。彼女を「ヤカタ」と呼んでそらぞらしく仲良くする事はしなかった。間もなくその変な呼び方は消滅した。
  彼女は、とても気を使う人なので、沈黙にならないように人一倍喋っていた。賑やかな人だと思っていた。だが、女ばかりが30人以上もいる劇団だ。なんとなく派閥もあり、私たちは違う派閥だった。
 仲良く話すようになったきっかけは、その劇団をやめる直前の公演だった。
  私はその公演で、はじめ、準主役級の役を貰った。経験も無いのにと、驚いていた。だが、本読みでウケたと気を良くしていた途端に降ろされてしまった。そして、セリフが5つの役になった。
  実力から行けば妥当だろうと、自分を慰めていた。
  だが、またもや降ろされた。
  そしてセリフが1つの役になったのだ。
  流石に落ち込んでいた。気が付くと、やはり準主役級の役から降ろされた彼女が側にいた。
  その芝居はダブルキャストだった。彼女はどちらの芝居にも小さい役を持っていた。そして、稽古に来なくなった人の役を「これ、ゆうかちゃんがやりなよ」と、提案してくれた。普段そういう事が言えない私も、このまま負けっぱなしではいけない!と、「マネージャーに、何とかさんがこのまま来ないなら、この役は私がやりたいのですが」と、訴えに行った。
  すると、それが通ってしまった。全然違うのだが、災いを転じて福にするとはこういう事だ、と思った。
  そして、私の役は二つとも彼女とコンビだった。その時初めて本音を言ったのだ。
「私の見る目が無いのかもしれないけれど、この話、つまんないよね。」
「私は演劇にしか興味がないけれど、ここの人達はタレントになりたいみたいだよね」
「あの子、主役貰った途端えばり出したね」
  彼女もそう思っていたらしく、私たちは堰を切ったように話し始めた。当時私と同じ派閥の人は恋愛にまで口出しをし、説教ばかりしてきた。ああ、こんな派閥にいないでもっと早く野村さんと話せば良かった、と思った。そして、私は劇団をやめた。
 しばらくして、同じ時期に劇団をやめた野村さんが作、演出をするというお芝居に誘ってくれた。就職を決めていた私は最後の記念にと、参加させてもらう事にした。
「演劇って思ったより楽しくないのだな」と、悟ってやめたのだが、彼女の台本は面白かった。こんな世界があったとは・・・と、驚いた。だが、それまでの人生で一番疲れた。楽しいけど、やはり自分には無理だと思った。
 会社を2週間で辞め、ゴミのような生活をしていた時、再び彼女から「ハイレグジーザスに出ない?」と、誘ってもらう。当時彼女はハイレグジーザスの作、演出だったのだ。ここで拾ってもらわなければ、一体どうしていたのだろう。
 それからも、私が、脚本を初めて書いた時にも、まだどんなものを書くか分からない時なのに、出たいと言ってくれた。彼女が女性3人で、作、演出をやりあおうと言った「薔薇の連帯」にも誘ってくれた。そして、今回の公演でも非常に力になってくれている。彼女が出てくれると言わなければ、旗揚げなど出来なかったかもしれない。私にとって、彼女は運命の女神のようなものだ。
 彼女は役者としてもこの上無く魅力的なのだ。
  彼女よりマックスのパワーがある女優さんを観た事がない。
  彼女より運動神経のいい女性も見た事無い。
  一度、ハイレグと共演したバンドに合わせて踊るように言われた事があった。彼女は黄色のTシャツを着ていたのだが、余りにも動きが早過ぎて人間の形に見えなかった。それは火の玉だった。
「のんちゃんなら、なんかのスポーツできっとオリンピック行けたよ」と言うと、「う〜ん、でも、男の子とデートとかの方がしたかったから」と、答えた。
  彼女は非常にもてる人でもあった。好きなタイプは眼鏡をかけた背の低い人らしい。
  背の高い男の人の方が、思い上がっているからか、向上心がなくコンプレックスも無い。馬鹿の確率が高いというのは分かる。しかし、大体の女の子は出来ればちょっと高めの方が好きだ。私は顏が大きく濃厚で、腕が回りきらない程胸板の厚い人がタイプだ。好きなタイプがかぶらないのも、仲良しでいられるポイントだ。
  15年経って益々仲良くなっているが、出来れば老人ホームでもご一緒したい。楽しい老後が過ごせるに違いない。